泣ける映画

マスクをつけると、顔が新しくなったヒーローみたいに力と勇気が湧いてきて、普通に自転車を漕げるようになった。ちょっとしたきっかけですっと心が静かになる。家につくとクマはまだコーヒーを飲んでいて、私にも新しく淹れてくれた。海であった出来事を説明すると、クマは自分からは何も言わずただああとかへえとか頷いていた。クマの落ち着きようを見ていると、何だか全部大丈夫な気がしてきて、私は眠くなった。コーヒーを飲むと眠れないという人がいるけれど、赤ちゃんの頃から寝つきが悪くて眠りも浅い私はそんな感覚味わったことがない。大体、私は何かとつけて心配症なのだ。昼寝でもしている間に帰ってくるかもしれない。クマがカチャカチャ食器を片付ける音を聞いているとさらに安心してきて、私はすべての感覚がぼんやりとしてきた。

 

テーブルのすぐ隣のソファに横になり、ぼんやりとテレビ画面を眺めた。BSで古い映画が流れててそれが有名な感動ものの映画であることを思い出した。思えば私は映画で泣いたことがない。いや、赤ちゃんの頃を除いて人前で泣いたことが数えるほどしかない。せいぜい3回くらいだ。ほぼ唯一泣けた映画は不思議なことに有名なアニメ映画会社の宇宙人もの。ひょんなことで宇宙人がハワイに落っこちて、ハワイの女の子と友達になる話だ。泣けたのは、物語の中盤。宇宙人であることを隠してペットのフリをしていたのが女の子のお姉さんにばれ、宇宙人が家から追い出されるシーン。「家族」は絶対離れない、ずっと一緒と言ってお姉さんに立ち向かう女の子と一人でしょんぼり外を歩き、あひるの親子を見てうなだれる宇宙人が映った時、鼻がむずむずして目が痛くなって、視界がぼやけ出したんだった。

「家族はずっと一緒なんじゃないのかよ」

声に出たか出ないかの声で言ってみる。そういえば母さんはあの映画半分くらい寝てたって言ってたっけ。そんなことを考えているうちに本当に眠っていたらしい。ハッと感覚を取り戻すとテーブルの上で携帯がブルブル震えていた。画面には弟の名前が表示されている。

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